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「片恋いコントラスト 第三巻」楠見清孝 感想。



楠見 清孝
冴子ちゃんが通う冠咲学園の教師で、専攻は日本史。
学級担任や部活顧問を受け持たない代わりに
学園内の植物の手入れを任されている、らしい。
若い独身教師であるからか一部女子生徒に人気のようで、
彼女らに「くっすー」と呼ばれて追い回されている姿もしばしば。

この方の特徴としては、とにかく「やる気がない」ということ。
それは教師という現在の職に対してもそうで、
仕事を辞めた後の元手にすべく宝くじ等を大量に買い込み、
学内で当選確認をしては崩れ落ちる日々。

二巻で、悩める冴子ちゃんが楠見先生に相談を持ち掛ける場面があるのですが
「勤務時間外だから勉強の質問は一切受け付けない」とさっくり拒否られるという。
「勉強の質問ではない」と言うと
「余計に無理」と取り付く島とかない感じでしたので、
こんな人とどうやって恋愛って話になるんだとしみじみ思ったものです。

なお、先述の「無理」の後に続いた言葉は
「仮に自分が話を聞いたとしても最後に決めるのはお前。
だから人に頼らず、自分で考えろ。
どうせ何を選択したって、絶対にどこかで後悔する。そう考えとけば気が楽」
と、存外に真っ当な「回答」だったりしたのでした。

※以下、先生ルートのネタバレあり感想になるんですが
 個人的に教師と生徒っつー関係性も悪くはないとは思うものの
 現代物だと、どうしても教師側の職業倫理方面に許容し難いものを覚えるので
 コメントがやや辛口傾向です。
 わかってるけど反省しません。



ず る い 。

この方、大人みたいに見せておいて、ちっとも大人じゃない。

基本的に、学校という狭い世界しか知らない、まだまだ未熟な幼い「生徒」が
親以外の大人である「先生」に憧れを抱いてしまうのは仕方がないと思います。
冴子ちゃんの場合、先生に一対一で直接勉強を教えてもらったりとか
自分だけ特別待遇ってのも相俟って
どんどん想いを寄せていくって流れはすっごく納得だし、
「教師と生徒の壁」に跳ね除けられて玉砕、も至極当然。

そこら辺がよーくわかるだけに
楠見先生にはもう少ししっかり毅然と撥ね退けて頂きたかったところですが
先生がしっかりしすぎちゃうと乙女ゲーとして成立しない。わかってます。
でもそれにしたって楠見先生の数々の所業はなかなかに凶悪で罪深いのであります。

――冴子ちゃんと先生の出会いは入学式の日に
先生が落としたコンビニのチラシを拾ったのが発端。

そこから脅威の遭遇率でしょっちゅう顔を合わせ
言葉を交わすようになりますも、この時点ではまだお互いに
「最近何か妙によく顔を合わせる機会が多い生徒(先生)」でしかありません。

この「妙に顔を合わせる相手」レベルから
少し段階が上がるきっかけとなったのが一学期の期末テストの、その結果。
冴子ちゃんはそこでなんと3教科も赤点を取ってしまい
夏休み中に補習を受ける羽目になるのですが、
歴史の補習対象者はなんと冴子ちゃん唯一人。

自分の作るテストで赤点とか出したくない先生が
授業中に散々出題ポイントをばら撒いていたっていうのに、
冴子ちゃんはその授業すらロクに聞いていなかったようでして……
補習用にと出されたプリントも問題文の意味がそもそもわかっていないという
惨憺たる様子にさすがの楠見先生も見るに見かねてか
「勉強を見てやろうか?」などと言い出してくれるのでした。

何事にも不真面目でだるだる、
宝くじで一攫千金狙ってるようなダメ教師、だったはずなのに
冴子ちゃんへの個別指導の時は普段の、
淡々と眠気誘われる系授業とは全然違って、
面白い小話なんかを交えて歴史への興味を引き出しながら
丁寧に分かり易く教えてくれるんですよ。
そんなこんなで先生と二人一緒に過ごす時間がじわじわ増えていくに連れて
冴子ちゃんは楠見先生、というか
楠見清孝という人のことがどんどん気になっていきます。

そんな気持ちが育っていたところに、やってきたクリスマスイブ。
母親が予約していたクリスマスケーキを代わりに引き取りに行ったら、
(学長に頼まれて)同じ店のケーキを引き取りに来ていた先生とばったり。
相変わらずのエンカウント率だなーと思いつつも、
かなり人気のケーキらしくて予約していたのにすぐには引き取れなくて
待っている間に何ということない、
確か今後も勉強を教わりたい的な話をしていたはず。
が、先生が真面目な顔をして近付いてきたと思ったら、頬に感触。
……真昼間の往来で、教え子に、同意なしで不意打ちにほっぺにちゅーとか!
ほんと何してくれやがるんですか、この方!
知り合いに目撃されていなくて本当によかったよな!

こんなことまでやらかされてしまいましたら、
そりゃ先生への想いは決定的になっちゃいますって。
もちろん教師と生徒でどうこうなんてあり得ない。
と頭ではわかっているつもりでも
ひょっとしたら、もしかして、みたいな
淡い期待が過ぎっちゃっても仕方ないですよね。

そんな折、改まった様子の先生が、
クリスマスの時のことを切り出してくるんですが
「俺とお前は教師と生徒。踏み越えてはならない壁がある」って
この期に及んでお前は何を今更な話を始めるんですか!

という訳で先生からの一方的なシャットダウンを食らってしまいましたが
でも100%フラれる恋だと分かっていても何もせず諦めるなんてできないと
2月14日のバレンタインデーに、チョコレートを添えて先生に告げるのでした。
「好きです」と。

――もちろんここで受け入れられるなんてことはなく、結果は当然の如く玉砕。

重々承知していた結果とは言え、冴子ちゃんへのダメージは大きく
先生の姿を見るだけで胸が苦しくて、
でもできるだけ何事もなかったようにしなければと
頑張って笑顔を作ろうとするも引きつってる、みたいな有様で。
出来得るならそんな気まずい相手とは接触せずに済ませたいのに
二年生になったらその気まずい楠見先生が担任になっちゃいまして。

対する先生の方は特段変わった様子もなく、
平然と冴子ちゃんに話しかけてきます。
担任が受け持っている生徒を無視する訳にいかないのは当たり前だし
生徒に告白されたぐらいで
いちいち動揺を露わにしていたらそれはそれで問題なんですが
結果として、冴子ちゃん一人だけが無様にあわあわしているだけでしかないと言うね…

ただ、一年の時とは異なり個別指導とかも終了しちゃっているので
先生と二人っきりで過ごす時間というのはそんなにはなく。
その代わり(?)隣席の転校生・楡居君が何か妙に突っかかってくるので応戦したり、
愛するラジオ番組の公開録音が決定して、その抽選結果に一喜一憂したり等
先生以外のあれこれに振り回されている内に失恋の痛みが薄らいできたのか、
先生の前でも少しずつ、普通の態度が取れるようになっていくのでした。



が。
秋に入り、生徒会顧問となった先生とたまたま二人きりで居た時のこと。

これまで「クジを当てたら辞める」だの
「当たらなくても辞める」だの「夏までには辞める」だの
散々何度も何度も「教師を辞める」発言を繰り返していた先生ですが、
結局は教師を続けていくことにしたのだそうで。
冴子ちゃんの存在がそう考える切っ掛けになった
等と打ち明けてくるのは構わないんですが、
それが冴子ちゃんを抱きしめながらの発言だった辺りが大問題で。

そんだけでも十分に酷な所業だってのに
学園祭当日には「話がある」と準備室に冴子ちゃんを連れ込んだ挙句
今度は頬でなく口の方にキスとかもうね…!

冴子ちゃん視点だけだとほっぺちゅーをかまされたクリスマスイブから約10カ月、
先生にふられてしまったバレンタインからでさえも半年以上も経っていて
その間、普通に「担任と生徒」をやってきたはずなのに、
何の説明もなくいきなりこれ、ですからね。
今更っつーか、あまりにも唐突感満載で、
せっかく気持ちが薄れてきた頃だってのも合わさって
「何で今になって!?」って思いましたよ、ええ。

先生は、その立場や年齢のこともあってか、
なかなか自身のことを冴子ちゃんに語ってくれないので
そういった内情等は先生視点のエピソードが追加される二周目を待たねばなりません。

といってもこの方、自分自身ですら自分のことが分かっていないと言いますか
立場上、生徒にそういう感情を抱くのは教師として有り得ないからと
考えることすらしないよう蓋をしてしまうところがございまして。
クリスマスイブの一件にしても、
先生側もそういう気持ちがこの時点であるんかいと思ったら
当人は全くそういう自覚無くて、ほぼ無意識というか、
不意に「可愛いな」と思ったら仕出かしてた、みたいな自分勝手で無責任な有り様。

そもそも楠見先生が教師という職を目指したのは
中学時代、不登校に陥った自分に寄り添い、救ってくれた恩師・飯塚先生に憧れ
自分も、一人でも多くの生徒を救いたいと願ったからで。
それが今のようにやる気を失い、
「教師なんて辞めてやる」と広言するようになったのは
その飯塚先生が、楠見先生を救った時と同じように
不登校の女子生徒を気に掛けていたら妙な誤解に繋がってしまって、
生徒や保護者、同僚の教師らに糾弾されて
心を病んで教職を辞するまで追い詰められてしまったから。

楠見先生としては、自分の目指していた場所がいきなり消え失せてしまったようなもので、
冴子ちゃんと出会った頃は、教員を志した時のような熱意なんてカケラもない、
しかし「辞める」気力すらもないという大変中途半端な状態だった訳です。

それが冴子ちゃんにかつての自分にどこか似た部分を見出して
彼女に勉強を教えるようになったことが後々教師を続けようと考える切っ掛けになった、
まではよかったものの、それだけでは収まらず。
飯塚先生の二の舞にならないよう、生徒との交流を片っ端から避けまくっていたのに
結果として、飯塚先生のように誤解ではなくて、
自分の方からがっつりと手を出しちゃってるっていうね…

「教師と生徒」などという建前で冴子ちゃんからの告白をお断りしましたが
その後、担任として冴子ちゃんのクラスを受け持つことになってしまった際には
精一杯平然としているフリを貫いて。

で、このまま自分の本心と向き合うことなく、やり過ごしていくつもりだったのに
その方針を保てなくなったのは、恐らく多分きっと
転校生・楡居凪君の存在のせいだと思われます。
学園祭の時キスしたの、絶対同日に凪が宣戦布告したせいだよね!?
言っては難ですが、一年生の時は冴子ちゃんの近くには
(先生以外だと)眞泉さんくらいしかいなかったのに、
二年になってからは凪が冴子ちゃんの傍にいるようになってしまって。
…結局、このまま若い二人を温かく見守れる
大人にはなれなかったっつーことなんでしょう。

これまでも、基本的に「平然」と振る舞っているように見えて、
冴子ちゃんに対する態度からは「特別感」が滲み出ていて、
気付いてしまった凪をモヤモヤさせたり、
その凪に嫌味だったり挑発だったりに取れるような言動をしていた先生ですが
こうして自分の気持ちを誤魔化すことを辞めた結果――大変大人げない方となります。

そもそも教師が教え子の女子高生に懸想した挙句に
彼女を巡って、恋敵である男子高生(こっちも教え子)と同レベルで張り合う
という事実を書き連ねただけで既にアレなんですが、
実態ははっきり言いましてもっと酷いです。

一部の生徒を贔屓するような行動ってまずいんじゃないの?
と思いつつも三人でカフェに入った時なんか、もうほんっとに酷かった。

凪を「子供は野菜嫌いだろ?」等とお子様扱いしながら
自分は「大人ですからー」とブラックコーヒーを頼んですまし顔。
これだけでも充分に「大人げないとはこういうことだ」を地で行く展開でしたが、
職員室の机にでっかい砂糖入れを置いてる甘党だって凪に暴露されるという情けなさ。
(実際、先生ブラックコーヒー飲めないっぽい…)

そんな感じで低レベルにいがみ合う二人に、店員さんまでオロオロ困らせちゃって
そりゃ間に挟まれた冴子ちゃんも「いい加減にしなさい!」ってなりますよって。

二巻の「三角関係編」で桐阪先輩に対して、一応最上級生(しかも生徒会長)なのに
一年坊主相手に何やってんだかと呆れ果てたものですが
上には上がいましたっつーか(下?)。
そして、一巻の幼なじみ同士はなんと穏やかで比較的平和だったことかとしみじみ。



そんな大変大人げない、どうしようもない大人である先生でございますが、
「やる気なさそうだしパッとしないしどこが好きなの?」
と眞泉さんからもド直球食らいましたが、
でも、このルートの冴子ちゃんはそんな人とわかっていても側にいたい、となるんですよね。
ご愁傷様です。

なお、さすがに在学中に教師と生徒が付き合うのには無理がありますんで
正式なお付き合いは冴子ちゃんが高校を卒業してから、
つまりあと一年ちょっと先の話となるのですが
付き合うどころか告白する前からぎゅーだのちゅーだの
やらかしまくった先生がどこまで何もせずにいられるのか。
無理だろw

ですが幼気な女子高生の恋心をあんだけぶんぶん振り回し、
弄んだ責任みたいなものはしっかり取って然るべき、ですので
主に冴子ちゃんの今後の幸せの為に、
先生にはきっちり頑張っていただきたいところです。
PR

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