樫永 和兎高校一年ですが、冴子ちゃんたちとは違うクラス。
亜樹那とは家がご近所で、家族ぐるみの付き合いの幼なじみ。
体育会系の亜樹那とは対照的に、体力がないとかで運動は大の苦手。
文章を書くのが好きな文芸部所属のガチ文系さん。
特進クラスにいけるくらい頭がよく、「綺麗」と称される整った顔立ちな上
いつだって笑顔を絶やさず、物静かだが人当たりのいい人格者。
そのため、周りから「王子様」扱いまでされていたり。
ちなみに文化祭では女装状態で接客しておられましたが、大変好評だったようで。
当人としては決して喜ばしい状況ではなかったようですけどね。
(特に冴子ちゃんにその姿を見られてしまったことについて)
以下、和兎さんについてネタバレつつあれこれ。
冴子ちゃん的に「王子様」な和兎は完璧な人格者に見えて
超眩しすぎて敬遠対象でしかなかったのですが
ある日、和兎が先輩女子に告白されている現場に出くわしまして。
やんわりお断りしている和兎にしつこく粘って粘って、
長い説得の末にようやく引き下がっていったその先輩女子に対し、
「王子様」和兎が冷たく一言――「何あれ、しつこすぎでしょ」。
…彼は決して心が清らかで完璧な「王子様」などではなく、
「人に嫌われたくないからつい誰にでもいい顔しちゃってるだけ」(当人談)
だったんですね。
本性を見られて「幻滅したでしょ?」と自嘲気味に告げたのに対して
「和兎に元々好感持ってなかったから」
「普通の人なんだとむしろ安心した」と正直に返したあたりで、
和兎は「亜樹那のお友達」ではない、
冴子ちゃん当人に関心を持ったんじゃないかと思います。
冴子の方は「敬遠対象」から「新たな話し相手」に格上げ(?)したものの
あくまでも「友達(亜樹那)の友達」くらいのスタンスだっただろうけど。
亜樹那への想いに気づいて、それを隠さなきゃと必死になっていた時
「本心を綺麗に隠して上手に生きている」先輩ってことで
(もちろん隠したい「本心」については明かさずに)
和兎に相談を持ちかけたことから、二人の距離が縮まっていきます。
亜樹那に振られて落ち込む冴子ちゃんの側にいてくれて
何かと気遣ったり励ましたりしてくれる存在になってくれる、のですが
「僕と付き合わない?」などと言い出してきて冴子ちゃん大困惑。
亜樹那への想いをずっと隠して「友達」でいるつもりだったのに、
思わず告白してしまって、振られて。
それからは何かと気まずく、会話どころか顔を合わせるのも辛くなってしまって。
「どうして告白なんかしちゃったんだろう」と後悔する冴子ちゃんに
「完全に告白する前に元通りなんてことはない」ときっぱり断言し
「それでも前みたいに仲良くしたいのなら、冴子自身が変わるしかない」。
という和兎さんの話は、ここまではまあ理解できなくはないのですが、
何でそれが和兎とお付き合いするなんて突拍子もない話になるんすかー!?
しかも和兎は冴子ちゃんに恋してる訳でも
相思相愛になりたい訳でもないんだそうです。
「付き合う」というより「恋人同士のフリをする」という感じ。
が、学園の「王子様」的存在である和兎と「フリ」とは言え付き合うだなんて
ファンの女子に何されるかわからない恐ろしい話。
和兎さんは「これは双方にメリットのある提案」なのだと仰るのですが
肝心の当人のメリットについては「小説のネタ」とか明らかにはぐらかしまくりで、
最終的には「それは言えない」とかなんなんですかもう。
ただでさえ振られた直後で、未練バリバリ傷心全開状態の冴子ちゃんが
相手がこちらを好きというのならまだしも
別に好きではない相手とお付き合いするとか
冗談でも許容できるはずもなく、当然の如くこの提案はお断り。
が、和兎さんも意外としつこい方で、この「提案」は何度も持ち出され
その度に冴子ちゃんはうんざりするのですが
何度目かの提案の際の和兎の真剣な眼差しや懇願にも似た響きに
事情は知らないまでも力になれるのならと思い、
「和兎に協力する」という体で申し出をついに受け入れるのでした。
…こういう妙に強引で押しが強いところも
そんな強引さに冴子ちゃんがつい絆されて負けちゃうところも
結果的にこの幼なじみ同士って似てるんだなあとしみじみ。
こうして「フリ」で付き合うことになった二人ですが、
冴子ちゃんを「好きな訳でも好きになるつもりもない」
などと言っていた和兎さんの方が何か本気になってしまったみたいで
「亜樹那を好きなままでいいから本気で付き合って欲しい」
とまで言われてしまうのでした。
――このお話が長々拗れに拗れまくったのはほぼほぼ亜樹那さんのせい。
という身も蓋もない見解は既に亜樹那さんの記事で触れたので省略しますが
もう一人の当事者たる和兎さんも和兎さんで大概面倒くさい人です。
あんだけ見た目とか頭脳とか大変スペック高い人なのに
当人の認識は「(自分は)最低の人間」という卑下っぷり。
確かに和兎さんは少々意地悪だったり、かなりのヤキモチ焼きだったりしますけど
「最低」とまで言い切るほどの欠点ではないと思われるんですが
彼が苦手としている運動能力に優れ、
人格的にも申し分のない理想の存在がすぐ身近にいたせいで、
ついついあれこれ比較する悪癖がついちゃったらしく。
それでいて自らの本性の「最低」部分を知られて人に嫌われるのが恐いと
周囲の期待に応える形で人格者のフリ、「王子様」を演じ続けて来た訳です。
「綺麗な人の傍にいると自分が汚いって思い知らされる」。
「王子様」モードの和兎さんに対して冴子ちゃんが言ったことですが
(冴子も冴子で、過去の経緯から自己評価が低い子なので)
和兎からすれば亜樹那はもちろん、そう発言した冴子ですら
自分よりも全然綺麗で敵わない相手、なんですよ。
そんな「綺麗な」二人が相思相愛っぽくて、
上手く行きそうで良かったねで終わるはずだったのに
冴子を想っているはずの亜樹那が振っちゃうんですからねー。
「もし僕が『冴子ちゃんが好き』って言ったらどうする?」「祝福する」
なんてやり取りをしちゃっていたこともあり、「譲られた」感バリバリ。
そりゃちょっと意趣返しとかしてみたくなっても仕方ない、のかもしれないです。
しかし、何のかので冴子ちゃんに本気になってしまった和兎さん。
「フリの恋人」という名目で冴子ちゃんの傍にいられるようにはなったけれど
「フリ」だから冴子ちゃんは全然そういう対象に見てくれないんですよ(当たり前)。
そもそも冴子ちゃんはまだ亜樹那への片想いを引きずっている状態だし。
だから、彼は何とか冴子ちゃんに振り向いてもらおうと必死にならざるを得ない。
「最低」な自分を隠すため築き上げてきた「王子様」という防壁を
冴子ちゃんを自分のファンからの吊し上げから守る為、
実質的にかなぐり捨ててしまったくらいに。
(そうしたら離れるファンも、新たな魅力に取り付かれるファンも出る始末w)
そういう苦悩や頑張りをずっと見せてくれていた分、
エンディングでこれまでの色々が吹っ切れたような全開の笑顔で
二人が堂々と歩いてる様を見てると
本当に上手くいってよかったねぇと言いたくなるのです。
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